現代マイセンで将来を嘱望されている造形家、マリア・ヴァルター氏。その芸術性と独創性は世界的にも高く評価されています。日本では2021年からミニ干支シリーズのデザインを手掛けていることで知られていると思います。人形や動物彫像を数多く手掛けており、無駄を排したシンプルな造形やユーモラスなデザインが特徴です。特にイマジネーション豊かな「不思議なオーケストラ」は、楽器と人形が一体化したユニークで美しい傑作です。今年の8月に初来日を予定しているヴァルター氏に日本のファンに向けてのメッセージ動画をいただくとともに、創作に関する思いや苦労などについてインタビューを行いました。ぜひご覧ください。
▲マリア・ヴァルター
マリア・ヴァルター氏 プロフィール
Maria Walther
1988年生まれ。サービス造形職業専門学校で学んだ後、モードファッションの裁縫師になるための教育を受けました。その後デザインへの情熱に気付き、職業専門学校や製品デザイン専門学校で教育を受け、製品デザイナーの州の資格を取得しました。自動車産業でデザイナーとして経験を積んだ後、2013年にマイセン磁器製作所に入り、造形部門の責任者でありトップアーティストでもあるヨルク・ダニエルチュクの門下生となりました。「磁器」という素材を深く理解するヴァルターの作品からは、磁器作品の無限の可能性が感じられます。
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マリア・ヴァルター氏から日本のマイセンファンの皆さまへ
1.ファッションや工業デザインを学ばれてきましたが、「マイセン磁器」に興味をち、この仕事を目指したきっかけをおしえてください。
マリア・ヴァルター氏(以下M.W.):私が最初に受けた職業訓練は洋服の裁縫師でした。当時はまだ自分の目指すものが決まっていませんでしたが、手作業でのクリエイティブな仕事に携わりたいという思いだけはありました。ただこの業界では創造性を十分に発揮することができませんでした。
ですので、自分自身でアイディアを生み出し、それを視覚化して形にすることを学ぶために、ドイツのバイエルン州のプロダクトデザイン専門学校へ進学しました。そこで初めて磁器という素材に触れました。カリキュラムには、磁器制作の基礎を理論と実践の両面から学ぶ内容が含まれていました。またこの学校は自動車産業との結びつきも強く、自動車メーカーによる講座では3Dプログラムを学び、マースクレイ(訳註:自動車や製品デザインの立体模型を作るための造形粘土)を使ってインテリアやエクステリアの造形も行いました。ここでの学びは私に非常に大きな影響を与え、それは現在の造形表現にも深く結びつていると思います。
その後、かつてマイセン磁器製作所のろくろ成型師であった先生が私の才能を見出してくださり、マイセン磁器製作所への応募を勧めてくださいました。私はスケッチに加えて、石膏、テキスタイル、磁器やマースクレイによる作品を携えて選考に臨みました。特に私の卒業制作である、ビロウドツリアブなどの昆虫をモチーフにした作品「ノルベルト」が、当時の主任造形師ヨルク・ダニエルチュク氏の目に留まりました。マイセン磁器製作所を訪れた際、私は職人たちのものづくりへの情熱と、特別な空気感をすぐに感じ取り、最終的にダニエルチュク氏のマイスタークラスの一員となりました。
2.独創的でユーモラスな作品が魅力的ですが、そのアイディアはどのようにして湧くのでしょうか。またアイディアを実際に表現する際には、どんなことを大切にしていますか。
M.W.:インスピレーションの源はたくさんあります。私は文学や神話、ポップカルチャー、科学、自然やその危機に関心を持っています。アイディアを具現化するにあたっては、磁器は焼成時に割れやすいという性質があるため、磁器で軽やかで躍動感のある美しさを表現することが、とても難しい点です。デザインにおいては、視線の流れや、小さな面と大きな面、動きのある面と静かな面の対比によって生まれる緊張感を大切にしています。その際、造形の立体的な表現を特に重視し、絵付は控えめな役割としています。私が制作するフィギュアの特徴は、必ずしも一目でその本質がわかるのではなく、見る人に多くの発見や解釈の余地が残しています。
▲人形「不思議なオーケストラ」
品番:78052/78057/90A498/6P
高さ:約19~28cm
左上から:シンセサイザー、ヴィオラ・ダ・ガンバ、管楽器、パーカッション、アコーディオン、エレキギター
アコーディオンに親しみ、オーケストラでの演奏経験もあるマリア・ヴァルターが楽器を人形でモダンに表現した作品。それぞれの人形に名前がつけられ台座には異なる楽譜が描かれています。
※こちらから人形「不思議なオーケストラ」の制作の様子がわかる貴重な動画をご覧いただけます。
3. 人形「不思議なオーケストラ」はとてもユニークな作品ですが、どのようにしてこのアイディアは生まれたのでしょうか。また数多くある楽器の中からこの6種類を選んだ理由も教えてください。
M.W.:「不思議なオーケストラ」のアイディアは、アジアの神話に登場する「妖怪」を知ったことがきっかけで生まれました。妖怪は100年前の物体に生命を吹き込み、呼び起こすとされており、その独特な世界観に強く惹かれました。私は10年間アコーディオンを演奏し、そのうち3年間はオーケストラに所属していました。数年前、長らく触れていなかった楽器を再び手にしたとき、当時の記憶や感情が蘇り「もしこのアコーディオンに命が宿ったら、どんな生き物になるのだろう」と想像しました。そこから生まれたのが、アコーディオンのようなパンツを履いた空想上のキャラクター「シア・モニカ」です。その他の楽器は、かつて私が所属していたオーケストラで演奏されていたギター、パーカッション、キーボードなどの楽器をモチーフとして取り入れて作品全体の物語性を広げました。この作品は6体で完結したわけではなく、今後さらに展開していく可能性があります。まずこの6種類から始めることで、ある程度の規模感を示し「オーケストラ」を表現するとともに、見る人にコレクションしたくなる魅力を届けたいと考えています。
4.楽器と人形を一体化して表現するにあたり、どのような部分が難しかったでしょうか。またそれぞれの名前にはどんな由来があるのでしょうか。
M.W.:楽器そのものがすでに芸術作品であり、その形状や素材の多様性は私たちの社会における多様性と通じる点を見出すことができると考えています。すべての楽器には異なる音色のイメージがあり、それが独自の音楽としてどのように音を奏でるのかを想像しました。難しかった点は、それぞれの楽器をどのようなキャラクターにするかです。
名前は、一部ドイツ語の楽器名と、姓・名の体系に基づいてつけました。
シンセサイザー(英Synthesizer)/名前:シンシア(Synthia)
ヴィオラ・ダ・ガンバ(伊Viola da Gamba)/名前:ヴィオラ・ダ・ガンバ
管楽器(トランペット)(独Trompete)/名前:トム・ペーター(Tom Peter)
パーカッション(英Percussion)/名前:ピエール・カッション(Pierre Cussion)
アコーディオン(独Ziehharmonika)/名前:シア・モニカ(Sia Monica)
エレキギター(カタルーニャ語Guitarro)/名前:ジェイ・タロ(Jay Tarro)
5.今後創作してみたいテーマはありますか。また挑戦してみたい造形はありますか。
M.W.:マイセン磁器製作所は、「白磁器」の他に白磁が誕生する前に作られていた「ベトガー炻器」でも知られています。私は今後もこの「ベトガー炻器」素材を自分の作品に取り入れていきたいと考えています。また彫像を機能的な作品に取り入れることも、私にとって非常に興味深いテーマです。さらに磁器におけるさまざまなデザイン技法をもっとたくさん試してみたいですし、アイディアを形にするために絵画的な技術もさらに学んでいきたいと思っています。
6.休日はどのように過ごされていますか。どんなことをするのが好きですか。
M.W.:コンサートに行ったり、本を読んだりしています。ハイキングやボルダリング、洋服の仕立て、スケッチ、造形などをすることも好きです。
7.来日は初めてと伺っておりますが、日本にはどんなイメージをお持ちですか。
行ってみたい所や興味のあることはありますか。
M.W.:日本へ行くことは私にとって長年の夢でした。特に風景、食、文化の面においてとても興味があります。東京や横浜は大都市としてとても圧倒的な場所になると思います。伝統から現代まで、さまざまなコントラストを内包している街であり、そうしたものを実際に街中で発見することを楽しみにしています。私は特に寺院などの伝統建築や伝統工芸に強い関心があります。また8月の滞在中には現代美術作家、ロン・ミュエクの展示が六本木の森美術館で開催されているようなので、時間があれば訪れてみたいと思っています。
8.日本のマイセンのファンにメッセージをお願いいたします。
M.W.:私の作品に関心をお寄せいただき心より感謝申し上げます。そして8月のマイセン展で、皆さまに直接お会いできることを今からとても楽しみにしています。