2023年12月、国立マイセン磁器製作所のマイスター、エルケ・ダンネンベルク氏が、京都で開催された特別展のために来日しました。会場ではダンネンベルク氏が手掛けた日本オリジナル作品も展示され、絵付スケッチも披露されました。またその折にインタビューも行い、 絵付についての興味深い話を聞くことができました。日本でも人気のあるシリーズ「アラビアンナイト」や「サマーナイト」などの絵付を任されているエルケ・ダンネンベルク氏のインタビューをご覧ください。

▲スケッチを描いているエルケ・ダンネンベルク氏

エルケ・ダンネンベルク氏 プロフィール

Elke Dannenberg

1970年4月12日マイセン生まれ。1986年から1990年まで、国立マイセン磁器製作所の養成学校で学び、その優れた才能から、1992年、「現代人物画絵付部門」に配属され、ヴェルナー教授のデザインによる現代マイセンの絵柄を描くようになりました。ヴェルナー教授の高弟ヴォルフガング・ワックスの指導のもと、1999年から2007年まで絵柄の開発にも携わり、2010年には「マイスター」となって、後進の指導にもあたっています。ヨーロッパだけでなく、アメリカやドバイでも実演を行ない、好評を博しました。

1. 久しぶりの日本ですが、どこかに観光はされましたか。

エルケ・ダンネンベルク氏(以下E.D.):自然の中を歩くのが好きですので、奈良公園を散策しゆったりとした時間を過ごしました。

2.日本からのリクエストで素晴らしいサマーナイトとアラビアンナイトの花瓶を描いてくださり、ありがとうございました。この2作品の見所を押してください。

▲花瓶「サマーナイト」(前)

▲花瓶「サマーナイト」(反対面)

品番: 68A186/50481 高さ:約70cm
シェイクスピアの名作「真夏の夜の夢」をもとにした「サマーナイト」の絵柄が、初めてこの大型の花瓶に描かれました。この大花瓶は現代マイセンの卓越した造形家、ヨルク・ダニエルチュクが2003年に創作したものです。妖精や動物たちが、耐火性顔料で描かれたブルーの小花の森で踊っています。

▲花瓶「アラビアンナイト」(前)

▲花瓶「アラビアンナイト」(反対面)

品番: 68A187/50481 高さ:約70cm
「サマーナイト」と同様に、大花瓶に「アラビアンナイト」のさまざまなシーンを描きました。花瓶の面をくまなく使い、そこにアラビアンナイトの名シーンを描いています。地色は物語を引き立てる深いグリーン。そこに繊細な金彩も加え花瓶全体に奥行と輝きを与えています。アラビアンナイトの集大成ともいえる逸品作品です。

E.D.この床置きのスマートな大花瓶にアラビアンナイトとサマーナイトを描くのは、日本の素晴らしいアイディアです。本当にエレガントなフォームで、二つの絵柄にぴったりだと思います。両方の絵柄とも、今まではお腹のぽってりした花瓶に描かれていただけにとても新鮮で、360度鑑賞できるのも斬新です。
サマーナイトでは、ブルーの小花だけでなく、口縁部に初めて大きな花をデザインしてみました。夜の森が花瓶全体を包んでいる感じです。 アラビアンナイトは、さまざまなシーンが魅力なので、大中小の丸を描いてその中にシーンを描きました。緑の地色部分に細かな金彩を加えたことで立体感も生まれています。伝統的な図柄を生かしつつ、現代的な工夫もできてとても嬉しいです。

3. ヴェルナー教授が考案した現代マイセンを象徴する図柄とされる「サマーナイト」と「アラビアンナイト」を継承しているダンネンベルクさんですが、どんな事を大切にしていますか。

E.D. オリジナルに忠実に描くことがとても大切なことです。今でも描く時には、必ず手本を前に置き描いています。伝統を受け継ぐとは、絵付師がアレンジを加えることなく、原画のクオリティーを後世に伝え残していくことがまず一番重要なのです。

4.「アラビアンナイト」はシーンが豊富で繊細な絵柄ですが、どんな点が難しいですか。

E.D. 人物をいろいろなポーズで描く場合は、人体についての解剖学的知識が必須です。そうでないと非常に不自然な人物画になってしまいます。ただ手本を真似るだけではなく、人体の構造を理解して描いています。

▲スケッチを描いているエルケ・ダンネンベルク氏

5. 日本のマイセンのフアンにメッセージをお願い致します。

E.D. マイセン磁器は、一つひとつ心を込めて手作りされています。硬質磁器を作るのに欠かせないカオリンの鉱山もマイセンは所有していて、ちょうど12月には新たな鉱脈の開鉱式が行われます。皆さまがどのマイセンを選ばれたとしても、手作りということは変わりません。機能もデザインも、本当に多種多様です。困難な今の時代に、どうかマイセン磁器を手にとり、お楽しみください。